top of page

投球障害肩

症状:投球時の疼痛や、投球能力の低下です。疼痛は日常生活ではほとんどなく、投球時のみ生じる場合が多いです。一連の投球動作における一定の動作で痛み出ることが多いです。それは痛みが出る肢位で、損傷した組織(関節唇や腱板関節面)が衝突しているためです。

引用:石田 康行・帖佐 悦男. 2013. 「基本のきから学ぼう 患者さんに話せるスポーツ障害(第4回) 野球肩」『整形外科看護』 18巻12号: 1188-90頁.

好発年齢:小学校高学年から上腕骨近位の骨端線が閉鎖する以前の中学生に多くみられる。

ポジション(野球):約半数が投手

​どんな疾患?

​野球の投球動作時に起こる肩痛を主とした疾患で、投球能力低下を引き起こします。野球のほかに、投球動作と同様の動きをするバレーボールのスパイク、テニスのサーブなど投球疑似動作でも同様の病態が生じます。

​ 投球動作は下肢体幹から上肢への運動連鎖で行われます。そのため、運動連鎖にかかわる部位に障害が生じたり、疲労の蓄積などのコンディション不良による機能障害が生じると運動連鎖が破綻します。運動連鎖が破綻した状態で投球すると、障害が起こりやすい部位に負担がかかります。

このとき肩関節では上腕骨頭肩甲骨関節窩に対して、ずれた(上腕骨頭の求心位の乱れた)状態で動き、関節唇や腱板関節面を挟み込みます。これにより、関節炎や組織損傷が生じ、疼痛が出現します。

引用:石田 康行・帖佐 悦男. 2013. 「基本のきから学ぼう 患者さんに話せるスポーツ障害(第4回) 野球肩」『整形外科看護』 18巻12号: 1188-90頁.

治療

 全身の運動連鎖の破綻が原因のため、それに対する治療が必要です。疲労の蓄積などのコンディション不良による機能障害に対しては休息やリハビリテーション(以下、リハビリ)が有効です。関節炎で疼痛が生じている場合は、休息や消炎鎮痛薬、注射などの保存療法で関節炎を鎮静化させます。関節唇や腱板が損傷してもリハビリで全身の機能が改善し、投球時に上腕骨頭肩甲骨関節窩に対して、よい位置で動けば(求心位が得られれば)、組織の挟み込みが生じないため、投球時痛は改善します。

​ 手術になる例は数%です。機能的な問題が解決しても、投球時の引っ掛かり感が取れない例に対して手術が行われます。現在は健常組織を犠牲にしない関節鏡視下手術が行われることが多いです。

引用:石田 康行・帖佐 悦男. 2013. 「基本のきから学ぼう 患者さんに話せるスポーツ障害(第4回) 野球肩」『整形外科看護』 18巻12号: 1188-90頁.

予防法

 近年の少年野球は本人のみならずその周りの人々(指導者や両親など)の関心が非常に高いようである。あまりに勝負にこだわるため、その練習量も多くなる傾向にある。また本人も試合に出たいため無理をする傾向にある。しかし、成長期においては肩甲帯の筋力不足や個々の体力に差があり、これを本人や指導者、または両親が十分認識することが必要である。

 まず両親や指導者が子どもの体力や投球による障害を熟知し、それにあったトレーニングメニューを組むことである。

 成長期においては体力に個人差があるため画一的なトレーニングでは障害を引き起こすため、各個人に合ったトレーニングでは障害をが必要である。また身体が未熟なため一部分の強化(投球のみの練習など)に限るのではなく、体すべてのトレーニングが望ましく、徐々にトレーニングの量を増やしていくことなどが重要である。

 投球に関しては、正しい投球フォームを指導し、変化球の禁止や投球数の制限などを守らせ、異常を訴えるものには練習の中止や専門医への診察を積極的に行うことである。

​ また、本人はまだ成長期であることを認知し、異常があったらすぐに申し出て適切な治療を行うことが必要である。

引用:大沢 敏久・荒牧 雅之・饗場 佐知子・ 高岸 憲二. 2001. 「投球による肩の成長期障害ーその治療と予防ー」『臨床スポーツ医学』 18巻2号: 197-200頁.

投球動作

野球選手の短期的および長期的育成

⚫︎投球障害

野球障害が発症すると練習や試合に参加できないため、短期的なパフォーマンスは低下する。また前述のように、ジュニア期の遺残障害によって、成長後のパフォーマンスが低下したと考えられる例が頻発している。

 代表的な投球障害として、肘関節では上腕骨小頭離断性骨軟骨炎上腕骨内側上顆障害

肘尺側側副靭帯損傷肘頭障害が、肩関節ではインピンジメント症候群肩腱板損傷などがある。さらに、胸郭出口症候群が投球側に出現する例が報告されており、これについても予防や早期発見の対策が必要である。

 これらの投球障害を予防するためには、投球数、投球強度、コンディショニングなどの体力的要素、投球動作などの技術系要素に分けて考えることが必要である。

⚫︎投球数

投球数が増加するとともに投球障害が増えることが報告されており、野球の現場では投球数制限に対する意識が高まっている。

 一方、筆者は、投球数制限が行き過ぎて必要な投球数以下しか練習しないため投球の持久力が

下がり、試合途中でのパフォーマンスが低下する例を経験した。この過剰な投球制限による

パフォーマンス低下は、選手の相対的な投球強度を上げる原因になると予測され、これも障害の

リスクとなりうると推察している。

⚫︎投球強度

投球強度について、Slenkerらは主観的投球強度を下げれば肘や肩の負荷も下がることを報告しており、投球強度は障害予防の重要なパラメータだと言える。

引用:金岡 恒治・ 赤坂 清和. 2015. 『ジュニアアスリートをサポートするスポーツ医科学ガイドブック』金岡 恒治・赤坂 清和編. 東京都: 株式会社メジカルビュー社.

アイシングの実際
 肩の慢性的な痛みは、関節の奥深いところで起こっているケースが多く、本人も患部を細かく限定しにくいものです。肘や膝のように炎症の起こっている部位をピンポイントで狙って冷やすことが

できればいいのですが、それが難しいため、痛みのあるところの周囲を拾い範囲で冷やす方法が基本となります。

 したがって使用するのはアイスパック。それを幅広の長いバンテージで巻いて固定します​(図3-42)。この写真では膝や肘を冷やすのと同じ大きさのアイスパックを用いていますが、ケースバイケースで(例えば肩甲骨周辺が痛む場合など)は、もっと大きいものを使ったほうが効果的でしょう。バンテージはゆるめに巻き、冷やす時間は一回あたり20分程度とします。

​図3−42

引用:山本 利春・ 吉永 孝徳. 2001. 『スポーツアイシング』1.東京都: 株式会社大修館書店.

bottom of page